2023.09.20

【Auberge TOKITO: Newsletter Vol.2】「オーベルジュ ときと」での過ごし方

【Auberge TOKITO: Newsletter Vol.2】「オーベルジュ ときと」での過ごし方

東京・立川に「オーベルジュ ときと」がオープンして4ヶ月、今回は実際に、お客様に、どのような体験をご提供しているのかを、感じていただきたいと思います。

東京・新宿からわずか30分あまり。耳を澄ますと「静けさ」という音が聞こえてきそうなほど。心穏やかで静謐な時間が待っています。手入れが行き届いた庭には、70数種類もの木が生い茂っています。「作庭する際にも、いわゆる茶室の木ではなく、前身である無門庵の想いと同じく、地域を守る森となっていくように、という願いを込めた木を植えました」と、出迎えてくれたスタッフが教えてくれました。

 

ときとのコンセプトは「料理人がもてなすオーベルジュ」。この庭ひとつとっても「一流の職人技を揃える」という心意気が見て取れます。料理を手がけるのは、国内外のミシュラン星付き店で、料理長をはじめ、責任ある立場を任された料理人たち。

そのキャリアの中で培われたのは、料理の技術はもちろん、器や室礼、庭に至るまで、最高級の職人技への審美眼でもあったのでしょう。

敷地は、大きく分けると「宿房」「茶房」「食房」の3つに分けられ、ここに宿泊すると、その3つを全て体験することができます。まずは、宿房にチェックイン。

落ち着いた照明、真空管アンプとレコードが出迎えてくれるウェイティングルーム。ウェルカムドリンクは、ソムリエがその日の天候や季節を鑑みセレクトしたものが供されます。

「とき」を刻んだ風合いの銅の扉を抜けた先の、わずか4室という部屋は、まるで茶室のような「静」の空間。約100平米という広さ、たっぷりとられたスペースがそれを物語っています。見事な古木の一枚板を生かした上がり框の向こうにはローベッドが置いてある畳敷の部屋。ヨーロッパで高級ベッドに使われる、貴重な馬毛を編んだマットレスや、細かい番手の麻のベッドカバー。細かな調度品に至るまで、最高級のものが揃えられています。

キッチンの引き出しを開けると、総合プロデューサー 総料理長の石井義典さんが土から手作りしたティーカップと茶碗が入っています。裏の銘は「掌(たなごころ)」。料理も器も、手を使って人を幸せにする職人技。その手仕事の大切さを知る、料理人が選んだだけあり、

ここに置かれているものたちは、全てそんな人の手の温もりを感じるものばかりです。しっかりとした甘みと旨みのある狭山茶で一服していると、まもなく、扉を叩くのはその石井さん。「お茶菓子をお持ちしました」と、手にした土鍋の中には、熟成して甘味を増した越冬百合根を丁寧に焼き上げたものが入っていました。砂糖を使わない、日本の大地と気候風土に磨かれた甘味です。

部屋についている掛け流しの温泉に身を沈めると、体が意外にも冷えていることを実感します。静けさは、気づかなかった身体の声に耳を傾ける機会にもなりました。宿泊には20分間のリトリート体験がついており、チェックイン後すぐの施術をお願いしました。お茶を飲み終わる頃に、ときと専属の20年のキャリアを持つベテランセラピストの山本卓子さんによるトリートメントを楽しめます。時々手に目がついているのではないか、と思うほど、ツボを見つけるのが上手い方がいますが、山本さんは間違いなくそんな一人でしょう。軽快な話術で、自分の生活習慣でついたクセを教えてもらいます。AIに置き換わることは決してないだろう、ひととひとの関係性、この施術も、たなごころが生み出す職人技の一つなのです。

部屋の冷蔵庫には、美しくカットされたフルーツや、「オーベルジュ ときと」を手がける立飛がつくる「タチヒブルワリー」の地ビール、作家ものの焼き物の器に入った自家製アイスクリームなど、ここならではの味覚が詰まっているのも、料理人の妥協ないこだわりでしょう。

部屋でしばらく時間を過ごすうちに、ソファなど、部屋のさまざまなしつらいが低めに作られていることに気づきます。穏やかな心に包まれるのは、この建物が日本の伝統的な畳に「座る」生活に近い、視座が得られるからかもしれません。

古来から日本人は、相手を敬う「お辞儀」のように、調和を重んじ、視点を低くすることを大切にしてきました。ここでは、まるで「にじり口」を通って茶室に入るかのように、普段の視点とは異なる形で、自然と向き合うことができます。それは、私たちの文化がおのずから抱いてきた、自然に対する恭順や畏敬の念を思い出させてくれます。

自然への敬意は、この「ときと」に深く根付く考えのひとつ。無門庵時代からあった庭石で新しく生み出した石庭や、伐採せざるを得なかった木を捨てずに、新たに菓子皿に作り直すなど、わざわざ手数をかけて行う技の裏には、命を慈しむ気持ちが根付いています。「めぐるめぐみ」をテーマにした料理に関しても、この地域の土や使用済みの箸を燃やした灰を食器の釉薬にするなど、土地に根付き、ここで循環していく食を生み出す心意気が感じられます。

そして向かったのは茶房です。ここでは食前のお茶やカクテルなど、食前の一服を楽しむことができます。炉が切られた茶室もある室内、丁寧に淹れられたお茶に、これから向かうダイニングへの高揚感が高まります。

食房は、宿泊者優先のカウンター席へ。一期一会として亭主が走り回って食材を手に入れ、工夫して提供する「馳走」という言葉がぴった

りときます。器を土から生み出すように、一から自分たちで作るアプローチは、たとえば醤油麹や「七味唐辛子」ではなく、独自のバランスで調合した「三味唐辛子」などの手作り調味料からも感じられます。

 

総合プロデューサー 総料理長の石井義典さんは、著名な京都の三つ星京懐石店で修業を重ねたのち海外にわたり、ロンドン「UMU」の総料理長として、ヨーロッパでは初の二つ星を日本料理店にもたらした人物。ヨーロッパでは日本の魚が手に入りづらいことから、地元の漁師を訪ねて神経〆の技術を教えるなど、20年に渡る海外でのキャリアで世界の味覚を知るのみならず「素材からの料理」のためのアプローチを厭いません。さらに、総支配人 料理長の大河原謙治さんは、長年北海道でミシュラン2つ星の日本料理の料理長を務め、北海道洞爺湖サミットで各国首脳に料理を振る舞っただけあって、北海道のみならず、全国の生産者とのコネクションも豊富。

そんな二人の経験が遺憾無く発揮されたコース構成は緩急自在です。「今日は良いボタンエビが入ったので」と、店で〆た活けのボタンエビを、石井さんがあえて調味せずに提供したかと思えば、大河原さんが炙ったなめらかな身質の鮪に、イタリアのミシュラン三つ星「ダ・ビットリオ」で修業をした料理長 日山浩輝さんが、店で仔牛の骨から丁寧に煮出した熱々のフォンドボーのソースの旨味と山わさびのアイスクリームを加えて温度差を楽しむ仕立てにするなど、「素材系」もあれば「調味や温度感を考えた構築系」の皿もあり、その時の食材に合わせたアプローチが楽しめます。

そして、特筆すべきは全体の味の洗練具合。伝統的な日本料理の味覚に立脚しながらも、国際的なゲストの味覚も満足させます。たとえば、ウニ丼をアレンジした「料理人の寿司」は、時間に合わせて炊き上げた生姜ご飯を、米酢の代わりにバルサミコ酢とワインビネガーで酢飯にして、バターで焼き上げた蝦夷鮑を混ぜ、たっぷりと盛り付けた極上のウニのアクセントにするなど、研ぎ澄まされたバランス感覚で、西洋のエッセンスを加えつつも、「今の日本料理」として組み立てられていることです。

より気軽にこの場所を見てみたい、という方には、茶房でのアフタヌーンティがおすすめです。ここのアフタヌーンティにも、一期一会の茶の心が生きています。ケーキやスイーツ類が手作りなのはもちろん、冷凍や作り置きはせず、どれも作りたてを提供するのだそう。「この値段で?と驚かれるのですが、どうしても妥協できなくて」と笑う石井さん。そこにあるのは、優れた職人としての心意気。たなごころが生み出す温かさを感じる時間を、ぜひ実際に体験してみてください。

そしてカウンターは宿泊者優先ですが、空きがあれば食事だけでも。ダイニングルームは宿泊なしでもランチ・ディナーともに利用が可能で、シェフ自らテーブルで料理を仕上げるなど、より気軽ながら、ダイニングでしか味わえないゆったりとした魅力に溢れています。

オーベルジュ ときと

東京都立川市錦町一丁目24番地26

JR立川駅よりタクシーで約10分

https://www.aubergetokito.com/

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